情動解読能力は、情動知能の中心的な下位概念である。本研究は、以下のような手順で、情動解読能力を測定する課題遂行型検査の開発を行った。「課題遂行型」とは、被験者に一定の課題を遂行させ、その成績によって能力を測定するタイプの検査のことである。 1.実験協力者2名に、「さびしさ」「安心」「うれしさ」など、16の情動が含まれている32の対人場面をシナリオに沿って演技させ、これをビデオに撮影した。 2.ビデオでの対人場面の32シーンを被験者に1つずつ呈示し、登場人物が表出している情動が何であるか推測させた。 3.被験者の推測結果をもとに、32の対人場面の弁別力を統計学的に分析し、有意なものだけを選別しようと試みた。しかし、基準の設定を実験者基準にするか被験者内基準にするかによって結果が大きく異なることが判明した。いくつかの分析を経て、最終的には、被験者内基準により、快情動9場面(α=.70、I-T相関r=.33以上)、「不快情動」7場面(α=.50、I-T相関r=.32以上)、計16場面を選択した。 この検査の妥当性を検討するために、既存の杜会的スキル尺度との関連をみたところ、特に「関係維持」因子との間には有意な相関が認められた(r=.41)。また、外的基準による妥当性を検討するために、情動知能が高い学生は就職内定を得やすいとの仮説を検証した結果、就職内定者は未定者よりも情動解読能力検査の得点が有意に高かった(p<.05)。 本研究で開発した課題遂行型の検査は、被験者にとって何を測定されているのか判断しにくいために、虚偽の報告や、意図的に歪めた回答は困難となる。また、被験者の自己省察力などの回答能力に依存しないため、情動知能を直接、測定することができる利点がある。ただし、妥当性に関する検討は必ずしも十分ではなく、今後の検討が必要である。
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