研究の第1の成果は、1990年代に現れてきた構築主義的な枠組での文化接触研究をレビューし、カルチュラル・スタディーズやハピトゥス論の文化接触研究の概念枠組としての可能性について一定の見解を示したことである。第2の成果は、本質主義的な文化接触研究の旗頭であるJ.Berry博士をお招きし直接に話を聞き、また彼が率いるグループの研究論文を批判的に読むことができたことである。その結果、彼の理論では、文化を異にする集団が接触するとき、劣位の位置を取らされる集団が優位な立場の集団の差別的な扱いに反撃し、位置取りを変えていく可能性が扱われていないこと、劣位の集団の特性を本質的で固有のものとした考え方による研究は、状況を変革していくエネルギーを閉ざし、現状維持的に作用するという示唆を得た。以上の理論研究の成果は、報告書の「第1章文化接触研究の理論化に向けて:構築主義の立場から」、「第2章研究方法論としての解釈的アプローチ:客観的な社会的現実はあるのか?」にまとめられた。 構築主義的な枠組で、研究代表者とそのもとで博士論文研究を行っている院生が行った個別研究が、報告書の「第3章日米間移動とアイデンティティのハイブリッド化:在日国際学校卒業生の追跡調査から」、「第4章留学生における<文化規範>理解のパターン:ホスト文化と自文化の間で」、「第5章日本の学校との出会いによる文化的アイデンティティの揺らぎ:マジョリティであった<外国語指導助手>の場合」、「第6章オーストラリアの日本語教師たちの日本語教育観:その形成過程と実践を語りから考察する」の4編である。
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