ヒト及びチンパンジーの乳幼児を対象として、道具などの対象操作行動と音声言語表現を用いた社会的交流活動の連関過程を縦断的に観察し、幼児独特の自己認識と個別的な認知諸機能との関連を検討した。 【研究1】4〜6歳の幼児43名を対象として、空間的・時間的な自己認識、中間概念、円の描画表現での面積系列化操作の形成過程を次の観点と方法で調べた。(1)空間的な自己(自己多面視):自分の顔や体をどのように認識しているか(自己全身像の三方向画)、(2)時間的な自己(自己形成視):自分自身の発達的変化についてどのように認識しているか(自己成長画)、(3)中間概念および面積の漸増系列化操作:小さいマルからだんだん大きなマルをたくさん描かせる課題にどう応えるか(面積漸増円描画)。5歳代で系列化操作が確定した段階で自画像において「後ろ向き画」が描けはじめるとともに、自分の身体の量的拡大を正確に表現できるようになった。6歳代で「横向き画」が確定した。発達年齢6歳以上なのに「後ろ向き画」が描けなかった幼児5名では、発達検査の「模様構成」や「積木叩き」などいわば外的なモデルに合わせて対象を操作する課題や短期記憶課題は通過していた一方、「左右弁別」や「人物完成」など具体的・実質的な人物イメージの形成と表現を必要とする課題が未通過だった。自己認識と認知・言語機能の乖離が知的発達遅滞と連関すると考えられる。 【研究2】ヒト幼児9名およびチンパンジー幼児9個体(基礎群:三和科学研究所・熊本霊長類パークの人工哺育4個体、比較群:人工哺育1個体、自然→人工哺育3個体。林原自然科学博物館)を対象として、生活観察を行い、積木つみや踏み台利用行動を縦断的に観察した。実の母に育てられた子どものチンパンジーは積木つみ行動が誘発されにくかったことから、積木つみ操作は人間的な社会環境と連関することが示唆された。
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