本研究の目的は、人間の行動の決定因に関する概念的整理と、新たな方法論に基づく実験的研究を行うことによって、「基本的な帰属のエラー」の発生機序を明らかにすると同時に、社会的推論における非対称性の背景を探ることであった。人間の行動の原因を、行為者本人の内的要因と外的状況の要因とに分けるやり方は、Lewinの公式以来、心理学全般で広く受け入れられており、またHeiderも同様の二分法を提唱したために、帰属研究においても基本的な分類軸として用いられている。しかし、この「人」と「状況」に関する推論には非対称な関係が存在することが明らかになってきた。第一に、原因帰属において、「人」の側の内的要因を重視しすぎるという形の非対称性があり、また特性推論に際しても、外的環境・状況によって決定された行動から内的特性が推論されてしまうという傾向が見られる。本研究では、1.行動の予測や般化可能性など、帰属以外の認知的測度を探索することによって、社会的推論研究の範囲を拡大すること、2.コンピュータ・グラフィックスやビデオ映像などの視覚刺激を用いた実験を行い、知覚的顕現性の効果を吟味することを通して、推論の非対称性の問題を検討した。今年度は、主に、(1)コンピュータ・グラフィックスによる刺激と、(2)2人の人物の会話場面を異なった角度から映写したビデオ映像を呈示し、被験者に判断を求める実験を行った。いずれの実験でも、知覚的顕現性が、対象人物の特性推論や相互作用場面に対する判断に与える効果を検討したが、各人物の発言内容や会話の流れなどが及ぼす影響が大きく、知覚的な顕現性の効果は必ずしも明瞭ではなかった。以後、実験方法の改善を行い、場面の性質や会話内容との関連を考慮に入れながら、知覚的な効果を更に検討し、対象人物に対する過剰な推論を消失させ、状況要因のウェイトを増大させるような条件を探る予定である。
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