研究概要 |
社会的ステレオタイプがコミュニケーションを経て集団内に共有される過程を、社会心理学実験によって検討した。 [実験1]ある商品に関する情報が3人の被験者からなる連鎖の中で伝播されていく過程を調べた。商品情報を呈示すると同時に、メーカーに対する「一流」「二流」のステレオタイプ的予期を操作した。連鎖の第1人目に刺激情報を口頭で再生するよう求め、これを録音した。第2人目、3人目は、先行被験者の録音内容を刺激情報として受け取り、同様の再生・録音を行なった。結果は、再生に際して「情報を後続の人に伝達するため」という目標を与えられる「共同条件」では、伝達を経るごとにステレオタイプ一致情報が残りやすくなることを示した。一方、「自分自身の判断のため」という再生の目標を与えられた「単独条件」では、こうしたステレオタイプ効果が見られなかった。商品に対する評価や、その後に行なった記憶再生課題においても,ステレオタイプ的予期の影響が見られた。 [実験2]情報の送り手が、単純に自己の知識や判断を伝達するのではなく、受け手の持つ知識や評価を考慮に入れてコミュニケーションを送る過程を調べた。刺激人物に対して好意的または非好意的態度を持つと知らされた、伝達の受け手に対して、送り手は迎合的な方向へ伝達内容を歪めること、また自身もこれと整合する評価を形成することが示された。 [実験3]被験者である大学生が、同年代の学生(内集団)、または高齢者(外集団)に商品情報を伝える過程を調べた。また商品に対する関与度を変化させて伝達に伴う「関連性」も操作した。結果は実験2と同様、送り手が受け手に同調した伝達を行なうことや、集団成員性と関連性の影響を明らかにした。 一連の実験結果は、社会的ステレオタイプが、個人レベルだけでなく集合レベルでの認知表象としての性質をも持つことを実証した。
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