共有的信念がコミュニケーションに反映する過程を調べるため、前年度に引き続き以下の実験研究を行なった [実験4]コミュニケーションの送り手が、受け手の態度や信念に整合した情報を選択的に伝達する「受け手への同調」現象について、集団間文脈の影響を中心に検討した。大学生の参加者が、同じ大学の学生である受け手(内集団条件)または他大学生(外集団条件)に情報伝達する状況を設けた。送り手と受け手の間の、話題の対象に関する既存知識における「地位」も操作した。結果は、内・外集団に関係なく、受け手が既存知識を多く持っていることが期待される場合に、より顕著な同調効果を示した。自己よりも受け手の状況を考慮したコミュニケーション伝達が行なわれることを示し、共同作業としてのコミュニケーションという性質を例証した重要な結果と言える。 [実験5]社会的事象の原因に関する推論(原因帰属過程)が、文化的に共有された説明様式に基づいて行なわれることを示すための実験を行なった。社会的に望ましい、または望ましくない行為を示した人物のプロフィールを呈示し、人格形成の原因情報として、本人の属性など内的原因と養育環境などの外的原因の両方をあわせて呈示した。実験参加者は、連鎖再生法によって、3名から成る連鎖の中でストーリーを順次伝達した。伝達に際して、次の順の人にわかりやすくストーリーを作成するよう教示する「集合目標条件」と、自分自身の判断の参考とするためと教示する「個人目標条件」を設けた。その結果、文化的・共有的規範が顕在化する集合目標条件で、外的原因により多くの言及がなされた。これは事象の原因に関する東洋文化的信念の特質を反映した結果と考えられる。
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