[実験6]社会的ステレオタイプの共有性を検討するため、二者間で行なわれる会話の内容分析を行なった。2人組の女子大学生46組、計92名に、参加者自身の大学(内集団)または他大学(外集団)のいずれかに通うと称する女子学生のインタビュー・テープを呈示した。テープには各大学ステレオタイプに一致する情報と不一致な情報が同数ずつ含まれていた。刺激人物について2人が行なった会話を分類したところ、外集団条件では不一致情報よりも一致情報について数多くの発話が見られたのに対し、内集団条件ではこれと逆の結果が得られた。これはいわゆる「外集団均質性効果」と同方向の結果で、個人の場合と同じく集合レベルでも外集団に対する表象の方が単純でステレオタイプ的であることを明らかにした。 [実験7]ステレオタイプ的情報の伝播過程を吟味するため連鎖再生法を応用した実験を行なった。日本人またアジア人留学生とラベルづけした、ある学生の一日の行動を記述した文章を、日本人大学生90名に呈示した。刺激文章は日本人ステレオタイプに一致しかつアジア人留学生ステレオタイプに不一致の情報と、これとは逆の情報とを同数ずつ含んでいた。これを、自分自身または他者に伝達するために、それぞれ要約して記述することを求めた。記述内容の抽象度を分析したところ、外集団ターゲットに関する伝達では一致情報をより抽象的に、不一致情報をより具体的に表現していたが、内集団条件ではそのような効果が消失した。外集団に関するステレオタイプがコミュニケーションを介して共有・維持されていく過程が明らかになった。 [その他]前年度までに行なった実験結果を国際・国内学会や学会誌において発表した。このうち内・外集団に関する合意的認知が形成される過程を吟味した実験論文が国際学術雑誌に受理され印刷中であるほか、この研究に用いた尺度を検討した論文が国際学術誌に公刊された。
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