まずステレオタイプと認知表象に関するこれまでの研究を概観し、理論的に考察する作業を行なった。これに基づいて、次に社会的ステレオタイプが集合的に共有された認知表象であることを示すための実験を行なった。共有的認知表象の形成過程を明らかにするとともに、共有性の影響について多くの知見を得た。第一に、コミュニケーションの送り手が、その受け手が持つ態渡や知識を考慮しながら伝達内容を調整する過程を調べるための実験を行なった。併せて、送り手と受け手との間の内・外集団成員性や、知識量等における情報地位の影響を検討した。結果は、受け手の持つ情報的地位が、伝達されるコミュニケーションの内容を強く規定することを明らかにした。さらに、受け手に合わせるために変容したはずのコミュニケーション内容が、翻って送り手自身の判断や記憶などの認知表象に影響を与えることも示された。またステレオタイプ的特徴を持つ刺激人物について、二人組みのペアが行なう会話の内容を分析する実験を行なった。結果は、外集団についての会話が、ステレオタイプに一致する情報よりも不一致情報の方に割かれることを示した。これは、個人レベルの記憶において不一致情報が優位を示すというと現象と共通している。不一致情報に対してなされ精緻化の深さが、こうした効果の原因であるとする説明について根拠を与える結果となった。個人内の情報処理過程の解明だけでなく、集合的・共有的な認知の特質と規定要因を吟味することによって、より包括的な説明のための理論的枠組み作りの重要性を指摘する研究結果であった。この他に、認知表象の「文化的共有性」に関する検討の基礎として、比較文化的研究を推進する一方、合意性認知に関する実験的研究などにおいても成果をあげた。
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