研究概要 |
感情の障害であるといわれてきた不安や抑うつを,認知情報処理上の歪みとして捉える認知心理学的な試みがなされている。さまざまな認知処理段階で生じる歪みは認知バイアスと総称され,注意・記憶・解釈の点から検討が行われてきた。認知バイアスの程度は,個人特性と感情喚起状況との交互作用により決定されるといわれているものの,従来の報告では両要因の統制が十分に行われていないという問題がある。本報告では,不安と抑うつについて,個人特性により被験者をスクリーニングし,感情喚起操作を行うという手続きを用いることで,要因統制を行った。下記の4つのテーマに対して5つの実験を行った。 (1)不安における注意バイアスと否定的感情の維持:高特性不安者は,脅威語への注意バイアスが認められ,否定的感情も維持されることが示された。注意バイアスによる脅威情報の入力が,ネガティブ気分を維持させている可能性がある。 (2)不安における注意バイアスと記憶バイアスとの関連:否定的感情が喚起されると注意バイアスが認められるが,潜在記憶バイアスは高特性不安者においてのみ認められた。特性不安により注意バイアスと記憶バイアスの認められ方に違いがあるのは,配分される処理リソースが異なるためだと考えられる。 (3)不安の統制的処理過程における注意バイアスと対処スタイルの関連:不安の意識的で統制的な処理過程において,接近的対処を行うsensitizerは脅威語に注意を向けるバイアスを生じ,回避的対処を行うrepressorは脅威語から回避的になるバイアスを示すことが明らかにした。 (4)抑うつにおける解釈バイアス:あいまい図形の解釈において,抑うつスキーマの存在が否定的な解釈を促進させることを明らかにした。
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