大学学部生625名に、現在に影響を与えている過去の出来事、IES-R(改訂版出来事インパクト尺度)、治療希望有無の質問紙を実施した。有効回答は453名(男子、181;女子、264名;不明8名;平均年齢20.2(SD=1.77))で、性被害、近親者の死、交通事故、いじめ等深刻な出来事を報告していた33名をトラウマ群(治療希望は6名)、軽い出来事を報告していた420名を健常群としてt検定を行った結果、合計点と回避・麻痺の因子でトラウマ群が有意に高く、合計点25点以上(184名)でも回避・麻痺の因子でトラウマ群が有意に高かった。 性被害を受け複雑性PTSDが疑われる2名のクライエントに対して、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)を用いた治療を行い、治療中の左右の外耳道温、心拍数を継続測定した。 IES-R45前後の21歳女子大学生は、幼少期に母親から暴力的なしつけ、兄から性虐待を受けた。EMDR30回でさまざまな記憶の再処理を行い、47回の治療により症状は大きく改善した。さらに、(1)右の温度が左より高い(.25〜.39℃)、(2)左右とも施行後にかけて上昇する(左:.17℃、右:.32℃)、(3)セッションの進行につれ終了時の左の温度が高い傾向がある、(4)認知の妥当性が左右の外耳道温度や心拍数と関連があることがわかった。 IES-R43の35歳主婦は、阪神大震災後の不調として、子どもとの分離不安、頭痛、不眠等の症状を訴えた。治療への恐怖感が強く、17セッション目にようやく3回の性被害が語られ、性被害及び義父の実母への暴力の記憶などEMDR11セッションで治療したが、改善が見られないまま39セッションで治療中断となった。(1)右の外耳道温が左より0.25℃高い、(2)心拍数は施行前から後にかけて3拍低下し、(3)成功したセッションでは心拍数が低い(前:10.58;後:12.25の差)ことがわかった。
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