研究概要 |
今年度は,平成12-14年度にかけて行った実験の結果をまとめ,それを抑制機能という枠組みの中で位置づけてみた.今回の一連の実験では,復帰抑制の現象をとりあげた.復帰抑制とは,刺激の場所が関わる抑制であり,なおかつ,一旦活性化した反応(一度注意を向けた刺激への反応)の抑制であった.この位置づけを前提に一連の実験結果をまとめると,次の3点にまとめられる.(1)復帰抑制は加齢の影響をうけにくい抑制機能であること.今回対象にした4歳児から高齢者まで,すべての群で復帰抑制が確認できた.一般に加齢の影響をうけやすいといわれている一部のネガティブ・プライミング効果(negative priming for identity)とは対照的である.(2)復帰抑制の現象は反応の困難度の影響を受けている可能性があること.同じ場所弁別課題を行った実験においても5歳児よりも4歳児で,大学生よりも高齢者で,復帰抑制が強く機能していることが確認できた.このことは,大学生を対象にした実験において,刺激反応の不適合条件や二重課題条件下で,復帰抑制が強く機能することからも確認できたといえる.(3)4歳児や高齢者では場所をベースにしたネガティブ・プライミング効果(negative priming for location)が低下している可能性が指摘できたこと.4歳児と高齢者では,5歳児や大学生ではみられない反応傾向を示した.その背景にはネガティブ・プライミング効果に代表される一部の抑制機能の未発達,あるいは衰退があるのではないかと考えられた.以上のことから,同じ「location-based inhibition」でも,復帰抑制に代表される「関連刺激に対する一度活性化した反応の抑制」とネガティブ.プライミング効果や,Simon効果に代表される「無関連な刺激に対する反応の抑制」では発達の影響が異なる可能性が指摘できた.この点ついては今後の課題であろう.
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