本研究では、現職の学校教師たちが日常的に行っている個別的な児童・生徒あるいは保護者との「目に見えにくい」実践活動を、臨床的な個別データとして蓄積し、それらのデータをもとに、個人レベルでおこなわれた実践に内包されている臨床心理学的な意義を、学校教師と共に事例研究を行いながら明確にし、学校現場において教師が主体的に活用できるような視点・枠組みの提示を目指した。本研究の目的にそった、現職教師による事例研究会を開催するために、各校種ならびに職種(小学校教諭、中学校教諭、高等学校教諭、養護教諭)から研究協力者を1名ずつ募り(合計4名)、半年に1度のペースで3回にわたる継続的な事例研究会を行った。事例報告は、フォーマットを用いた事例報告書に基づいて行われた。3回の事例研究会から、小学校から高等学校までの10事例が検討された。ここでは、「教師の体験」を中心に据えながら検討がなされた点が特徴的である。対人的な相互作用において、相手に関わる人間には何らかの体験が必ず生じるものであり、それを抜きにした事例研究は生きたものとはなりにくい。このような意味で、教師の体験は主観的であるから価値が低いのではなく、その主観性をいかに自省的に把握していけるかが重要で、関わる際の根本がそこに提示されると考えられた。10事例を上記の観点から、心理臨床的に考察した。また、4事例を抽出し、詳細な事例提示と共に、報告者以外の参加教員と研究代表者による事例へのコメントを文章化した。これは、校種・職種の違いから多面的に検討することに加え、同じ教師と言っても共通性だけでなく、理解や関わりの相違点が明確にされることを期待し、各事例検討が一般教師にとってのモデルとなるためである。こうした検討を通して教師としての「限界」が認識されたが、これは教師としての仕事を見極めようとする積極的な意味をもっていることが考察された。
|