研究概要 |
本研究の目的は、自己概念の構造が精神的健康や社会的適応に与える効果を検討することである。その際、認知構造内の「非一貫性」に注目し、その適応的意味を検討した。自己概念の一貫性・非一貫性は、should self, actual self, can selfの、3つの自己概念下位側面間の強度の様態により定義した。3下位側面とも高い、或いは低いという様に強度が一貫している状態を一貫性自己概念、ある下位側面は高いが他は低い等のように強度が一貫していない様態を、非一貫性自己疑念と定義した。自己概念一貫性の強固な追求を、「柔軟でない自己概念」と定義し、このことが社会的適応の阻害要因になることを検討してきた。 (1)平成12・13年度の概要:平成12年度は、can selfが高い非一貫性自己概念の精神的健康度が最も高く、すべてが高い一貫性自己概念の精神的健康度は低いこと、平成13年度は、前者の自己概念を有する人は不快事象に遭遇しても、不快事象の原因帰属を分節化して認知可能であり、このことがストレスに対するバッファとなり、良好な精神的健康、高い自尊感情をもたらすことを見出してきた。 (2)平成14年度の目的:自己概念の一貫性・非一貫性の様態と、葛藤事態におけるcoping、および精神的健康の関係を検討した。 (3)結果:1)can selfが高い非一貫性自己概念を有する人は、葛藤事態において分節化したcoping strategyを有しており、困難事態と容易事態でcoping strategyを使い分けできること、対照的に全てが高い一貫性自己概念タイプは、coping strategyの柔軟な使い分けができないことが見出された。 2)前者は精神的健康度が高く、後者は低いことが見出された。 これらの結果から、自己概念の一貫性礼賛という従来の見解に、批判的問題提起をする必要があると考察した。
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