本研究では、犯罪発生に関与する地域環境、住居環境要因を明らかにすることを目的として調査を行った。その際、犯罪行為を選択と決定からなる一連の過程と考え、犯罪発生に関与する地域環境要因、住居環境要因も、それぞれの決定段階で異なる可能性があると考えた。そのため、住居環境要因を比較的明確に捉えやすい集合住宅を対象に、調査を行った。 昨年度までの研究では、名古屋市内の4区8地域の高層集合住宅に居住する成人女性を対象として質問紙調査を行い、以下の所見を得た。すなわち、近隣レベルでの要因として用いた高層住宅の立地場所条件によって自転車盗難、バイク・車盗難、車上狙いなどの乗り物関連犯罪の発生に差が見られた。また、高層住宅の敷地内というレベルでは、住棟数で見た住宅規模が犯罪発生に大きく関与しており、侵入窃盗や乗り物関連の犯罪は大規模高層住宅で多いことが示された。それに対して、性犯罪では立地場所と住棟数の相互作用が認められ、住棟数の影響は駅周辺に立地する高層住宅で顕著であった。 今年度は上記の第1回調査で得られた所見を埼玉県の高層住宅で再確認するために第2回の調査を実施した。調査実施時期は平成15年3月から5月の期間で、調査対象は第1回と同じく成人女性であった。現在、結果を分析中であるが、性犯罪が郊外の高層住宅で多く、かつ立地場所と住棟数の交互作用も認められるといった、名古屋市内での調査と一致する所見が得られている。しかし、侵入窃盗は住棟数よりも立地場所の影響があり、駅周辺の高層住宅で多いという所見や、バイク・車盗難は大規模住宅で多いという所見など、名古屋での調査結果と異なる所見も得られている。このほか、監視カメラのある高層住宅では侵入窃盗は少ないが、性犯罪については監視カメラのある高層住宅の方が多いといった所見もえられている。 第2回調査については現在、さらに分析中であるが、本研究は今年度が最終年度となるため、第1回調査と第2回調査の所見の比較検討も行いながら、報告書の作成にかかっている。
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