本研究では、犯罪発生に関与する地域環境、住居環境要因を明らかにすることを目的として調査を行った。その際、犯罪行為を選択と決定からなる一連の過程と考え、犯罪発生に関与する環境要因についても近隣地城レベル、場所、住居レベルといった異なるレベル間の相互作用を問題にする必要があると考えた。そして、この点を、居住環境要因を比較的明確に捉えやすい高層集合住宅を対象に検討した。 研究は二つの調査から成り立っている。第1回調査は名古屋市内の高層住宅居住者を対象としたものである。第2回調査は、第1回調査の項目を整理して、埼玉県内の高層住宅居住者を対象としたものである。 調査対象者は成人女性とした。 まず、単一要因として犯罪に関与した環境要因で最心顕著であったのは、住宅規模であった。すなわち、大規模住宅になるほど犯罪は発生しやすくなる。また、敷地内の照明条件も犯罪発生に関与し、とくに侵入犯罪に対しては、照明条件は抑止的に働くことが第2回調査から明らかとなった。他方、集合住宅の立地場所の環境としては、郊外住宅地の方が性犯罪や暴行など、身体犯罪が発生しやすいことが見いだされた。 本研究が注目した近隣環境要因と住宅環境要因の相互作用についてはいくつかの犯罪で確認された。たとえば、敷地内照明条件の場合、不十分な照明の集合住宅では公然わいせつや放火が多いという傾向は、郊外住宅地で堅調であるが、駅近辺の商業地ではさほどこの影響はなかった。あるいは、強制わいせつの場合、商業地では住宅が幹線道路沿いにあるとこの犯罪が多いのに対して、郊外住宅地では逆に、幹線道路から離れた住宅で多いという結果が第2回調査で見られた。 以上の本研究の所見は、高層住宅という住居環境要因と犯罪の関係を考える場合においては、その高層住宅が立地する近隣環境の条件を考慮する必要があることを示唆している。その意味では、本研究が指摘した、環境レベル間の相互作用も考慮に入れた分析の妥当性を示唆するものといえよう。
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