研究概要 |
1.学会発表 XXV International Congress of Applied Psychology (シンガポール,2002)において、"Primary and secondary control displayed in school textbooks : What kind of messages do the adults pass on to the next generation?"と題して口頭発表をし、日本、韓国、中国、タイの教科書に描かれた「いい子」像について、東・東南アジア諸国で子どもに期待される対人関係に関して異文化間比較を行った。また日本教育心理学会第44回総会(熊本市,2002)において、自主シンポジウム「家族は子どもにとってどのような意味を持っているか:日本、中国、台湾、韓国における『家族』の理想と現実」を企画し、その中で「教科書に描かれた家族の理想像」と題して口頭発表を行った。東アジアの親に期待された「親役割」を分析するとともに、通時的な比較を行い、時間軸の中で「親役割」に変化が見られることを指摘した。さらに通時的比較を展開させ、日本発達心理学会第14回大会(神戸市,2001)において、「日本の育児行動における通時的比較:1960年と2000年の教科書に描かれた育児行動」と題して、時問の変化が家族のあり方、親役割、育児における性役割にもたらす変化について発表した。 2.「文化の二分法」論に対する再検討:アジアにおける多様な文化の存在 多くの国際比較研究では、欧米とアジアの国々とを比較することが多く、その際に認められた行動の差異は、欧米とアジアとの「文化」の違いであると説明されてきたが、本課題では特にアジア地域に焦点を当て、アジアで使用されている教科書に投影された文化を比較することにより、その多様性を明らかにしてきた。その結果、アジアでも家族関係、育児における性役割、親役割、子どもに期待する対人関係、教師と子どもの関係では多様な違いが見られることが明らかとなり、「文化の二分法」論を再検討する必要性が指摘される。 3.通文化的比較と通時的比較:文化システムと人間の行動との関係 教科書に描き出された人間の行動は、各国の杜会・経済的な要因や歴史的な要因と関連している。国際比較と併せて1ヶ国内の時代間による比較を行うことによって、杜会の状況が子どもの発達期待に及ぼす影響を明らかにした。 4.本課題に関する今後の発表予定と研究方向 本課題は研究の最終年度に当たるため、3年間の成果を本にまとめて出版する予定である。それとともに、アジアのみならず、今までにも検討してきた欧州間の比較を充実させていきたい。また欧州内の比較を行うことによって、本研究で得られた成果を踏まえ、社会体制や経済状況などの社会システムと子どもの発達との関連性をさらに明らかにしたい。
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