1.研究成果の概要 本研究では東・東南アジアに焦点を当て、日本、台湾、韓国、中国、タイ、バングラディシュの6ヶ国で発行された1960年と2000年の教科書の内容を分析し、教科書に投影された家族関係、育児における親役割・性役割、「いい子」像などの観点から、次世代に伝達しようとしている各文化の大人たちの発達観を文化・歴史的観点から分析した。分析結果の一つとして、日本の親の育児行動の変化は、他の東アジア諸国である韓国や中国とは異なっていたことが指摘できる。韓国や中国では1960年から2000年の40年間で、父親の育児行動量が増加したにもかかわらず、日本では相変わらず母親への育児負担が有意に多かった。さらに日本の親に対して、こどもへのしつけなどの役割期待は減少し、知識を授与するという役割期待が増加した。これは女性の高等教育進学率の増加や、子どもに対する親の思い入れの変化が関係していると思われる。このようにアジア諸国内の多国間で比較し(通文化的比較)、さらに1つの国の中での時代的な変化(通時的比較)を検討することによって、今まで行われてきた国際比較での「文化の二分法」論を見直し、社会・経済構造の変化と人々の価値観や次世代への期待の変化との関係を探ることができると考えている。 2.学会発表 海外では、International Congress of Applied Psychologyなどで、合計5本の学会発表を行った。日本国内では日本教育心理学会、日本心理学会、日本発達心理学会などで、合計4本の学会発表を行った。特に日本教育心理学会において、自主シンポジウム「家族は子どもにとってどのような意味を持っているか:日本、中国、台湾、韓国における『家族』の理想と現実」を企画し、東アジアの親に期待された「親役割」を分析するとともに、通時的な比較を行い、時間軸の中で「親役割」に変化が見られることを指摘した。
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