科研費交付申請書の研究実施計画に従って、2年度は主として論理的認識の獲得における自己組織化の役割について実験的調査を行った。具体的には、大学生を被験者として条件型命題論理の獲得における自己組織化を、小学生を被験児として選言型論理の獲得における自己組織化について実験的調査を行った。さらに、初年度の数学的認識の獲得における自己組織化の研究の補足として、くじ引き課題を用いた割合観念の教授学習の可能性について小学生を被験児として発達的調査を行った。以上の実証的研究から、次のような知見を得ることができた。 1 課題に対する反応レベルではほとんど同じ反応をし、同じ発達水準にある者として位置づけられる被験者同士であっても、実験者の側での示唆や反対教示に対する反応が大きく違うことがあることが分かった。即ち、被験者が課題解決において困難に遭遇したとき、実験者のちょっとしたヒントによってたちまちその困難を乗り越えて高次の反応レベルに移行する者から課題解決のための手がかりを繰り返し与えても困難を解決できずに同じ反応レベルに低迷しつづける者までいた。このことは、認知システムのダイナミズムを明らかにするためには、認知システムの自己組織化における準備状態をも解明しなければならないことを示唆しているように思われる。 2 認知システムの安定性には大きな幅があり、均衡状態にある認知システムに撹乱を与えた時、小さな撹乱要因に対してすぐに動揺を示して不均衡状態に陥る者から大きな撹乱要因に対しても均衡状態を維持し得る者までさまざまであることは既に昨年度の研究から明らかにされていたが、当初不安定であった認知システムも撹乱に対する動揺を繰り返すことによって、次第に安定性を増し、システムの自己組織化はその内部で静かに進行している可能性があることが今年度の研究によって明らかにされた。
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