研究概要 |
今年度科研費申請書の研究実施計画に従って、自己組織化に関する2つの補足実験を行った。1つは、前年度の実験(算術的差異課題における自己組織)の補足調査で、差異観念の完成された時点における正当化の理由を解明するため、小学校3年生を被験者として補足実験を行なった。その結果、小学校中学年では概ね二つの集合の要素教の差を言えるようになるものの、その理解は一方の集合における要素の除去による、他方の集合における要素教の相対的増加と除去された要素の、後者の集合への付加による絶対的増加との総和であって、加減の同時性に基づいて同数集合間でのn要素の移動が集合間に2nの差を生むと予測することは小学校3年生でも難しいことが分かった。 もう1つの補足実験は小学2,4,6年生を被験者として、解釈課題、三段論法課題、4枚カード問題を含む論理的推論課題を連言否定文について行った。条件文に関する4枚カード問題は大人でも難しい課題としてよくしられているが、【reverse left half-bracket】(pq)タイプの連言否定文については小学生では妥当な推論が可能な者は一般に見られたものの、論理構造が条件文と同じ【reverse left half-bracket】(p【reverse left half-bracket】q)タイプの連言否定文になると、小学生には妥当な推論はほとんど不可能であった。このことは課題の難易は命題の言語的表現形式よりむしろその論理構造に依存していることを示しており、論理的推論能力そのものの自己組織化が示唆された。さらに、条件文を用いた論理的推論課題における自己組織化の以前の調査において、二つの条件命題に対して矛盾した反応を示しながら矛盾そのものに気づかせることが難しいことを明らかにしたが、連言否定文に関しても【reverse left half-bracket】(pq)タイプに対する反応と【reverse left half-bracket】(p【reverse left half-bracket】q)タイプに対する反応とで同じ現象が見られたばかりではなく、同一課題の内部においてさえ被験者の反応に本人の気づかない反応の揺らぎが多数見出された。
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