研究概要 |
1 認知発達における自己組織化は、当初考えていたより、その過程がはるかに頑強(robust)であり、もっと内在的であることが分かった。このことは、自己組織化が自律的なメカニズムに従っていることを示唆している。 2 認知システムを認知的撹乱に対する補償システムとして捉え,矛盾は肯定(認知的撹乱のポジティブな側面)と否定(認知的撹乱のネガティブな側面)との不完全な補償に由来するとする、ピアジェ(Piaget 1974)の矛盾の捉え方は極めて有効であることが分かった。しかし、認知システムにとって何が肯定であり、何が否定であるかはあらかじめ決められないことも示された。 3 被験者にとっての肯定と否定とを実験手続きによって反転させることによって、被験者は均衡化への手がかりが与えられ、認知発達における自己組織化を促進できる可能性が示唆された。 4 認知発達の自己組織化における矛盾の役割は限定的であった。そもそも被験者自身が自分の推論や考え方に矛盾があることを意識化することがほとんどない。さらに、被験者を矛盾事態に直面させても矛盾の意識化は誤りの自覚に留まる。矛盾そのものはどこで誤ったかを教えるものではないため、直ちに理解することにつながらないのである。認知システムにおける矛盾は自己組織化のきっかけになることあってもそれ自体が自己組織化の促進要因にはなりえないことが示唆された。 5 本調査で、論理数学的認識の獲得において急速な自己組織化が見られたのは、自己組織化に必要な道具立てが被験者に既に備わっている場合であった。この場合、認知発達の自己組織化は当該の課題についてじっくり考えさせるという、内在的思考活動に訴えるだけで十分効果的であることが示された。しかし、自己組織化のための道具立てそのものがいかに獲得されるのかについては未解明である。この点についてはこれからの研究課題となろう。
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