本研究の課題は、一方では若年層の流出、他方では来住人口の増大という相反する要因によって、ともに農業の衰退を招いた地域を比較することによって、日本の農業地域の社会構造変動を実証的に明かにすることである。そのために山間農村の事例として福島県東白川郡矢祭町、大都市近郊地域として埼玉県蓮田市を選定して、前者については同町内に20の全「行政区」の区長を対象とした面接による聞き取り調査(2001年9月)、後者については同市内にある100自治会の全自治会長を対象としたアンケート調査(2000年9月)を実施した。それとともに両地域の各種役職者及び古老等に繰り返しインタヴューを行い、加えて行政文書、区有文書、自治会文書などの関連資料の収集・整理・解読を行った。 主なfindingsは以下の通りである。 1 両地域ともそこにおける地域自治組織(「行政区」・「自治会」)は、行政補完(各種行政施策の住民への連絡・取次・協力)とともに、行政への住民要求の取次及び地区独自のコミュニティ活動を行っている。 2 コミュニティ活動の内容には、両地域とも自治組織毎に違いがあるが、住宅地化の進んだ蓮田市においても、比較的多く農家を残している地域の自治組織では、明治期以来の大字範囲の組織を維持しており、この範囲で道路・排水路の清掃・維持活動及び親睦活動が行われていた。この点は、山間農村である矢祭町の自治組織と同様であった。 3 両地域におけるコミュニティ活動の大きな違いは、大字範囲における鎮守祭祀にみられる。矢祭町ではそれが自治組織(「行政区」)の重要な活動になっているのに対し、蓮田市では自治組織(自治会)の活動には組み込まれていない。 4 この違いは居住世帯の「家」的属性の持続の程度に対応しており、矢祭町の自治組織は、直系家族再生産が困難になる家族を増大させながらも、まだ「家連合」としての近隣組織をその基盤としている。
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