近代以降の日本社会に見られる金銭観や経済倫理とは、どのように形成され、そしてそれはどのように変容していったのか。この問題について、本研究では、経済エリートたちの生活世界や心性をとりまく社会的・歴史的背景に分析対象を絞ることをとおして考察している。 近代以前の日本社会における金銭観や経済倫理は、明治維新以降の近代化のなかで、急激に変化した。そして、その変化を促した主役は、何といっても維新後の産業化を推進した経済エリートたちであった。彼らは金銭や経済活動にかかわる価値観を様々なメディアをつうじて表現し、経済活動の模範的なあり方や企業家としての人生の指針を積極的に公表した。彼らの生活世界のトータルについて知ることや語ることをぬきに、近現代日本の金銭観や経済倫理を理解することはできない。本研究では、分析対象となる時代を明治期および大正期、そして昭和戦前期にとりあえず絞り、経済エリートをめぐる社会的・文化的状況、そして、経営活動以外の分野における彼らの動向にそれぞれ迫り、それらに分析・考察を加えた。具体的には、次の諸点を考察した。 1.「紳士」と呼ばれた明治期の富裕層が、どのようなプロセスでエリート集団として社会的に認知されたか。 2.雑誌などのメディアは、富裕層および経済エリートをどのようなイメージで語ったか。 3.経済エリートたちは、どのように自己の経営思想や金銭的成功のための指針を語り、また、どのような手段で自己の社会的な威信の向上を図ったか。 4.経済ジャーナリズムは、どのようなプロセスで、経済エリートたちの社会的地位や実業の価値を高めていったのか。
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