14年度は、最終年度として、(1)一般市民を対象としたアンケートの実施と分析、(2)看護師や市民の方へのインタビユー、(3)医療情報開示に取り組む病院でのインタビュー、を引き続き実施するとともに、(4)研究のまとめ(研究成果報告書の作成)、学会での発表に取り組んだ。 (1)市民を対象としたアンケートからは、カルテ開示に対する意識がいかに医師・看護師のそれと大きく異なっているのかが浮き彫りになった。例えば、開示により「信頼が崩壊する」かを尋ねた項目では、医師や看護師の半数が「そう思う」と回答したのに対し、市民では17%にとどまった。「治療への主体的参加」も市民が肯定的であるのに対し、医師は否定的である。一方、開示にともなって「患者の自己責任が増大する」かを尋ねた項目では、市民が否定的である一方、医師では、開示推進派ほど肯定的であるという興味深い結果が出ている。(2)以上の点は、市民へのインタビューからも裏付けられる。われわれが面接した十数人のうち開示に反対する人は一人だけであった。しかし、賛成する人たちから、医療や医師への不信が語られることも希であった。アンケートの結果通り医療への基本的信頼感を持ちつつも、より詳しい説明と納得を求めたいとする意見が強かった。市民にとって、医療記録は、そのための道具として認識されている。(3)ある先進的病院ではカルテを患者のベッドサイドに置くという取り組みをしていたが、患者やその家族の意見は、やはり、常に情報を確認できることで治療への意欲が増したというものであった。 現在、カルテ開示の法制化が進められようとしている。しかし、そこでのカルテ開示は患者から申請があって行うという方式である。われわれの調査からすれば、残念ながらこの申請型では開示件数は増加しないものと考える。インフォームドコンセントの延長、あるいは治療の環として記録開示を位置づけるならば、むしろ、配布する方式などより開示を日常化する方が、わが国における医師患者関係のよりよい進展にとって有益であるかもしれない。
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