本研究では、わが国における医療情報開示の現状について調査し、考察している。1998年、当時の厚生省が診療記録開示の法制化案を示し、日本医師会も法制化には反対する一方で開示のための指針を定めて以来、医療現場でもようやく情報開示の進展が見られるようなった。この研究では過渡期とも言える現時点で医療関係者と一般国民が開示に向かうこの流れをどのように受けとめているのかを知るため、滋賀県の医師、看護師、市民の3者を対象にアンケート調査とインタビューを実施した。その結果、-1)医師たちは、カルテ開示を良くないこととは捉えていないが、開示によって負担が増す以上には医療に良い影響があるとは期待していない。医師・患者関係はもともと良い状態にあったと感じ、それが崩れていくことへの不安を抱いている。2)看護師たちは、看護記録開示の進展が患者による療養への主体的参加をサポートするものであると考え、開示には積極的である。しかし、開示への抵抗感は強く、患者との信頼関係が揺らぐと懸念している。3)市民は、医療情報開示の進展に対し好意的である。ただし、記録の開示そのものよりも、診療について十分な説明を受け、納得して治療に臨むことをより重視している。医師や看護師が危惧するように(あるいは期待するように)開示によって信頼関係が崩れるとも、良好になるとも特に考えていない-など、厚生労働省や日本医師会、日本看護協会などが診療記録開示の目的として掲げていることとは異なる結果が知見として得られた。これまで、医療情報開示は患者の権利を擁護するといった立場から主張されることが多かった。もちろん、それも重要だが、さらに患者が医療に参加しやすくするための手段として開示を捉えるべきかもしれない。その意味で、これまで進められてきた申請型のカルテ開示ではなく、配布型のカルテ開示を見直すべきかもしれない。
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