ISSP(International Social Survey Program)のデータを用いて、法律観と倫理観に関する計量的分析を行った。今回の分析においては、ロジスティック回帰分析を用いた。分析においては、2つの焦点を設定した。1つは、自然法と実定法との間の議論である。自然法とは法律を歴史的、地理的諸条件を越え普遍的な真理としてとらえる立場である。この立場によれば、法律と倫理とは一体であり、個人における法律観と倫理観とは必然的に一致することになる。これに対して、実定法とは法律と倫理とを分離してとらえる立場である。今回の分析においては、無宗教の回答者と宗教的信仰を持つ回答者とを比較した。この結果、宗教的信仰を持つ回答者の方が無宗教の回答者よりも、法律を個人の倫理に優先させる傾向が高いことが示された。これは、宗教的倫理観が法律的倫理観に対して補足的な役割を果たしていることを示唆しており、回答者の意識においては、法律が実定法としてよりもむしろ自然法として認識されていることを意味している。2番目の焦点は、社会契約説が提唱する仮説である。これは、人間が法律に従う基本的な理由は、政府から受ける恩恵をその代償として期待しているからだとするものである。すなわち、個人と政府との間には一種の社会契約が結ばれているとする考え方である。分析においては、政府への期待度に対応する変数を複数の質問項目に対する回答からリッカート尺度として構成し、この変数の回帰係数に着目した。結果として、米国においては標本と母集団の両方において社会契約説の仮説が成り立っていることが認められた。しかしながら、他の国については年によって回帰係数の符号と有意性にはばらつきがあり、傾向は必ずしも一様ではなかった。
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