本研究は、ケアサービス分野における杜会的企業を対象に、その社会政策的意義を明らかにすることを目的としている。2002年度はイギリスとスウェーデンの社会的企業、日本の在宅福祉ワーカーズ・コレクティブを中心に調査を行った。 社会的企業に関する先行研究や、イギリスとスウェーデンの社会的企業を対象とする現地調査により明らかになったのは、社会的企業の台頭の背景には、地域経済の衰退といった社会経済的変化のみならず、社会政策の変化といった政治的変化の影響があるという点である。特に、EU諸国では、貧困や失業、社会サービスヘのアクセスの欠如等の社会的排除(social exclusion)の解消が社会政策上の優先課題となっているが、社会的企業には社会的に排除されやすい人々のために雇用を創出したり、ケアサービスなどの社会サービスを提供する役割が期待されている。近年社会サービスの提供といった社会政策は、政府のみならず民間非営利・営利セクターとのパートナーシップの形態で遂行される傾向がある。社会的企業は社会的目的を利潤追求よりも優先する点で民間非営利組織(NPO)と類似するが、ビジネスに重点を置く点で既存の補助金・寄附に依存するNPOとは区別される。イギリス政府などは、社会的企業を支援する部局を貿易産業省内に設置したが、その背景には、社会的企業の企業家精神が社会サービスを革新する能力への期待がある。社会的企業は高齢介護の分野でも大きく発展しているが、そうした社会的企業には、質の高いケアサービスを安定的に供給する役割が期待されている。すなわち、ケアサービスなどの社会サービス供給に、営利企業とは異なる企業家精神、すなわち社会的企業家精神を持ち込むことにより、サービス供給に革新をもたらすこと、それが社会的企業に期待されている社会政策上の役割である。
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