本研究は、ケアサービス分野における社会的企業を対象に、その社会政策的意義を明らかにすることを日的としている。以下、12年度から14年度にかけてイギリスとスウェーデンの社会的企業、日本の高齢者協同組合等を対象に実施した研究成果の概要について述べることにする。 本研究により明らかになったのは、社会的企業の台頭の背景には、地域経済の衰退といった社会経済的変化のみならず、社会政策の変化といった政治的変化の影響があるという点である。わが国でも介護保険制度導入に代表されるように、公共サービスの民営化・外部化といった社会政策の変化が、高齢者協同組合や在宅福祉ワーカーズ・コレクティブの発展の背景をなしている。しかし、イギリスなどでの社会的企業重視の社会政策には、行政サービスの効率化の視点のみならず、多様なステークホルダーによるコミュニティ・ガパナンスという視点が強く反映されている。特に、EU諸国では、貧困や社会サービスへのアクセスの欠如等の社会的排除(social exclusion)の解消が社会政策上の優先課題となっているが、コミュニティ密着型の社会的企業には社会的に俳除されやすい人々のためにケアサービスなどの社会サービスを提供する役割が期待されている。近年社会サービスの提供といった社会政策は、コミュニティ・ガバナンスの視点から、政府のみならず民間セクターとのパートナーシップの形態で遂行される傾向がある。イギリス政府などは社会的企業の支援部局を設置したが、その背景には、社会的企業の企業家精神が社会サービスを革新する能力への期待がある。すなわち社会政策上、社会的目的とビジネスを両立させる社会的企業には、社会サービス供給に営利企業とは異なる「社会的企業家精神」を持ち込むことにより、より良質なケアサービスを安定的に供給する役割が期待されているのである。
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