本研究の目的は、高齢者介護における意思決定をアセスメントするために適切と思われる倫理の枠組みを検討することである。要介護認定後の介護サービス計画策定過程に焦点を絞り、介護状況に参与する者の経験する倫理的葛藤の分析を行い、長期介護における倫理にアプローチする分析視点(正義の倫理and/orケアリングの倫理)について調べる。 今年度は、はじめに文献を通じて、身体的・精神的自立性の低下に直面している高齢者の自律性支援をめぐる議論を調べ、併せて高齢者の自律性支援をめぐり経験される家族介護者の倫理的葛藤に関する経験的データの検討を行った。その結果、(1)家族介護の義務感と家族介護の限界認識との間に倫理的葛藤が存在する、(2)介護の必要性と引き換えに高齢者の自律性は家族介護者に譲渡される、(3)介護資源の不足による選択肢のない家族介護の状況は、介護者の干渉主義を問題とする以前に、痴呆性高齢者の自律性を犠牲にする、(4)社会的介護の費用負担は、家族介護における社会的介護の利用を抑制する、以上が明らかになった。次に、虚弱な高齢者の自律性支援をねらいとするケアプラン策定における介護サービス事業所に雇用される直接介護職員の倫理的態度に関する経験的データについて検討した。その結果、ケアプラン作成には情報収集と連携が必要とされるが、介護保険導入後の費用抑制策と、組織のバックアップ体制の不備、即ち組織間関係及び組織内関係の連携、母体組織や地域における資源の有無が、援助実践の倫理と関連がみられた。 以上、来年度にかけて実施する介護支援専門員の介護サービス計画策定で経験する倫理的葛藤に影響を与える外部要素と考えられる家族介護者と介護サービス事業者の倫理的諸問題を明らかにし、まとめた(投稿中)。
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