本研究の成果は、ケアマネジャーの「倫理的ディレンマ」の経験について、2つの調査方法を用い、量的データと質的データを基に分析・考察を行った点である。一つの方法は、愛知県X市の居宅介護支援事業者に調査票を配布し、35機関中27機関(77.1%)、35人から有効回答を得た(回収率34.3%)。-(1)もう一つは、22ヶ所の居宅介護支援事業者に所属する29人のケアマネジャーを個別訪問し、面接調査を実施した。-(2)(1)と(2)に共通の質問項目については合計し、64人のケアマネジャーのデータをもとに分析を行った。 「ケアマネジメントにおける倫理的ディレンマ」の経験の規定要因を説明するため、「倫理的ディレンマ」の得点を従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、ケアマネジャーの属性(性別、年齢、学歴、資格)および、ケアマネジャーの所属する機関の特性(就業形態、組織形態)は、「倫理的ディレンマ」の経験を説明する変量としての影響はみられなかった。むしろ、「ケアマネジメント活動に対する自己評価」の高低による影響がみられた。ケアマネジメント活動にとって最低限必要不可欠の連絡調整活動から高度な技術の管理・指導的任務まで、多元的システムへの関与・連携・調整を含むソーシヤイレワークの力量が必要とされる活動についての自己評価が低いほど、「倫理的ディレンマ」の経験は高くなるという結果が示された。雇用組織の特性のなかで、担当ケース数の過多、組織の支援体制の不十分さは、「倫理的ディレンマ」の経験の高さを説明する変量といえる。 量的データの分析結果を補完するため、ケアマネジヤーのオープン・エンドの回答から、「倫理的ディレンマ」の具体的事例を抽出・分類した。制度的・組織的脈絡のなかでの選択と、ケアマネジャーの主観的、規範的な判断の関係を浮かび上がちせた。
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