本研究の課題は介護福祉サービスにおける民間非営利団体の参与の日中比較である。これを解明するために、本年度には、主に中国の上海、武漢を中心に、文献資料調査と実態調査を行った。 文献調査:40年代初頭、孫文の夫人である宋慶齢が創立された民間組織の「中国福利基金会」は、中国の上海、南京、武漢などの南方地域に強い影響力を持っていた。福利基金会は地域に根ざし、セルツメントを初めとした欧米社会福祉の援助方法を持ち、南方地域にさまざまな福祉活動を行った。福利基金会の民間団体福祉活動としての運営方法は、今なお、中国の社会福祉活動に影響がおよんでいる。このような文献調査を通して、現実における民間非営利団体の福祉施設経営の社会的な基盤及びその理念、ノウハウを追求してきた。このような趣旨の下で『福祉に生きる-宋慶齢-』という本を書き下ろした。本研究の中間報告の一環として、位置つけたい。 実態調査:調査期間:場所:2000年8月?日〜9月6日、中国の上海、武漢 調査の目的:社会主義的土壌に生まれた中国の民間非営利団体の形態及び福祉サービス提供に対する評価基準を考察する。 調査方法:上海、武漢両地域の民間非営利団体が運営するモデル福祉施設を選び、経営の実態及び施設評価の基準を聞き取り調査する。 調査の内容:1民間非営利団体経営の福祉施設の形態 (1)行政補完型-上海羅山市民会館(1996年設立)日本モデル (2)公民協調型-天津鶴童介護施設(1995年設立)ドイツ・香港モデル (3)住民互助型-上海黄浦区「792」老人ホーム中国伝統モデル 2民間非営利団体経営の福祉施設に対する総合評価の基準 (1)非営利性 (2)運営組織と民主管理 (3)効率化 3考察の結論 (1)中国の南北地域における市場メカニズムの浸透に格差があり、経済発展レベルや地域文化などにより施設の性格が異なっている。今後、民間非営利団体の福祉施設の運営形態に関して、各所在地域の文化と経済発展レベルなどの要因を視野に入れる必要がある。また、多様な運営形態を認める必要性がある。 (2)評価の基準は利用者の権利・生活の質を擁護する意識が欠落している。民間非営利団体の成り立ちは民主主義制度の整備との関連が、今後の課題として課されている。 この実態調査の研究結果は、2000年日本社会福祉学会第48回全国大会に研究発表をした。それを基づいてより充実した論文を専門雑誌に投稿する予定である。
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