本年度は、宮城県角田市古豊室地区、宮城県七ヶ宿町横川地区、愛知県安城市高棚町を対象として現地調査を実施した。まず関係諸機関より対象地の基礎的資料を収集した。ついで各対象地より一つの集落を選定し、その集落の町内会長および区長といったリーダー層より、当該集落の歴史的変遷、集落の種々の社会組織等に関するデータを収集した。さらに、その集落に居住する世帯を訪問し聞き取り調査を実施した。以上のような現地調査により、次のような知見を獲得した。周知のように、地域社会のおける協力関係は、(1)地域社会を構成する全世帯の生活維持に共通するがゆえに共同作業として遂行される事柄(道路管理、用排水路の掃除等)、および(2)個々の世帯それぞれの生活および生産の維持に必要であるがゆえに、関係する少数の世帯との間で取り結ばれる互助関係(農作業のユイ等)二つであると言われる。今回の現地調査によって、いずれの対象地においても、昭和30年代までは(1)と(2)双方が行われていたことが明らかになった。しかし、今日では、(1)に分類される若干の共同作業以外は、農村地域といえども、かつてのような各世帯それぞれの生産と生活の維持を目的としてモノや労働力を交換する、地域内での日常的互助関係はもはや確認されなかった。とはいえ、この事実から単純に、集落内の各世帯の間の関係が希薄化しそれぞれが孤立化・原子化してきていると推論してはならないことも痛感された。各対象地において、地域社会を単位とする新年会、跡継ぎの結婚式にともなう他の世帯の対応、入院者に対する見舞い、葬式時の手伝い等が確認された。これらは、物質的な意味においてではなく、象徴的意味において重要である。すなわち、これらは、それぞれの世帯がある一つの地域社会の対等な構成員であることを互いに確認することとして把握されうるような営みなのである。次年度は、この点の探求をより一層深めることを課題とする。
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