本研究は、現代農村において、生活集団としての家族の諸活動にとって地域社会の有する意味を社会学的に考察することを目的とする。研究の焦点としたのは、第一に、過疎山村における高齢者世帯の生活維持にとっての地域社会の意味であり、第二に平場農村における農家生活にとってのそれである。第一に関しては、宮城県でもっとも高齢化の進んだ山村である七ヶ宿町を対象地とし、二つの集落の悉皆調査および高齢者福祉センターの活動に関する現地調査を実施した。その結果、高齢者世帯の生活維持にとって、公的機関の提供する「公助」、地域社会から得られる相互扶助を内実とする「互助」、同居世帯員および他出子家族から提供される「自助」の三者はいずれも重要な役割を果たしているが、それぞれ異なる意味づけを与えられており、取り結ばれる社会関係の質も異なることが明らかになった。とくに、地域社会とのかかわりにおいて、その共同作業では自ら出役できない高齢者世帯では他出子が来訪しておこなう、ホームヘルプサービスを利用するさいにも近隣のヘルパーは拒否する等といった事実から、高齢者世帯は、他の家々と互いに対等な立場であり続けることが重視されている点があきらかになった。第二に関しては、平場農村である宮城県角田市古豊室地区を対象地として調査をおこなった。古豊室地区では、1970年代前半に小規模農家が自家の稲作を維持する目的で機械共同利用・共同作業組織を結成し、また農産加工施設を集落内に設け、主婦たちの就労の場を確保してきた。こうした地域社会を基盤とした組織が、30年近くの間に、それぞれの農家の家族周期の推移により大きな変貌を遂げたが、いまなお農家家族の生活維持にとっての意義は失われていないことを明らかにした。
|