1.社会学による社会開発の理論化 社会開発の理論を提供する「開発社会学」(Development Sociology)を目指した本研究は、医療や保健・衛生などの生活基盤整備のハード面、伝統的な共同体から近代的なコミュニティに変えるコミュニティ開発というソフト面、一人ひとりの潜在的な諸能力を引き出す人間開発というヒューマン面から社会開発を捉え、これを社会学から体系づけた。 2.発展途上国の農村を中心にした社会開発の事例研究 経済開発優先論は個々の社会の差異を考慮しないため、発展途上国の住民本位の開発に結び付くことが少なかった。社会開発は固有の社会を認めそれを活かすことで、より豊かな生活を求めていく。途上国では社会開発が経済発展の前提条件として重要な意味をもつが、本研究は社会開発それ自体の重要性を指摘し、開発理論の新しい知見を目指した。発展途上国では経済開発だけではなく、社会開発の視点から捉えた地域住民にとって望ましい発展が求められている。それは単に伝統的な社会を近代化することではなく、固有の社会を活かした発展である。なお本研究は、先進国(日本)の社会開発の現状についても比較検討し参考事例とした。 3.国際協力における政策科学としての開発社会学の貢献 日本は、発展途上国に対して資金及び技術協力を行っている。しかし必ずしもそれらは成功しているとは言えない。それは、固有の社会に対する配慮が少ない経済開発を中心にしているからである。産業基盤整備の経済開発に対して、1990年代になると生活基盤整備を進める社会開発分野の国際協力が多くなってきた。こうした国際協力の社会開発に対して、理論及び政策面で貢献できる政策科学としての開発社会学を、本研究は目指した。
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