本研究は、代替的癒しの思想と実践について、主として我が国近代の同様の思想と実践との比較を行うことにより、その同質性と異質性を明らかにすることを目的としている。本年度は1970年代を中心として、必要な作業を遂行した。 1970年代は、社会・文化全般において大きな変動があったが、代替的癒しの領域においても、今日に基底的な影響を及ぼす変動が始まったと見なすことができる。その背景として、以下の主要因を挙げることができるであろう。 1.1960年代から本格化した情報化や欧米的ライフスタイルの影響、さらには国際的な政治・社会・文化の変革運動等が、1970年代に入り青年層を中心として、新しい社会・文化の変革の試みを促し始めたこと。 2.一定の経済的豊かさを達成するようになり、身体や健康への関心が高まってきたこと。 3.環境問題が深刻化して、安全性や身近な生活への関心が高まってきたこと。 4.国際的に近代医療の成果や方向性への疑問・批判が高まってきたこと。 これらの背景から、約言すれば、それまでの近代化を相対化したり批判・克服しようとする試みが盛んになってきたと言える。その現れの一環として、我が国の伝統や文化の中で見逃されてきた代替的癒しの再評価が行われ、また欧米や異世界のオルタナティブな世界観が紹介され評価された。他方、欧米においても東洋や異世界への文化的関心が増大した。その具体的現れの一つが対抗文化の思想や実践ということになろう。そして我が国の代替的癒しのいくつかが翻訳・出版されたり、先導的実践者により現地で紹介・普及され始めた。相互影響による変動の始まりである。 今後、これらの作業・考察を基にして、最終年度では今日の展開を踏まえた総合的考察を行う予定である。
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