本研究は、代替的癒しの思想と実践について、主として我が国近代の同様の思想と実践との比較を行うことにより、その同質性と異質性を明らかにすることを目的とした。本年度は、1980年代から今日までの関連動向を整理・考察するとともに、総括の年度であるため、全体的な取りまとめを行った。まず、1980年代から今日までについては、欧米の動向に連動して、我が国にも代替的癒しの思想と実践が顕在化してきたことが確かめられた。たとえば、我が国における1980年代のホリスティック・ヘルスやホリスティック医学、1990年代の代替医療などが挙げられる。これらの期間の動向を全体的に見ると、新霊性運動と呼ばれるグローバルで同時多発的な現象が、社会のさまざまな局面で顕在化してきたと言うことができる。また、WHOにおける伝統医療の見直しや活用の動向も、我が国で関心がもたれ、さらにWHOでは1990年代末期にスピリチュアリティを健康の定義に含める議論がなされ、我が国でも議論がなされる事態となった。 しかし、我が国近代に形を為して命名された代替的癒しとしての療術は今日まで、主たる主張を保ったまま、法制化運動が継続しているが、基本的な行政的対応に変化はない。すなわち、社会の根幹的制度においては、代替的癒しはあくまで代替知にすぎない。変化したのは、現代保健医療の環境や問題であり、国際的相互影響化の中での生き方や価値観の多様化であろう。すなわち、外部情況の大きな変化が、代替的癒しを蘇らせ、現実的選択肢の供給源となってきた。だが、近代知から見れば、それは解明が始まったばかりの存在であり、また近代に対するオルタナティブな生き方の一表現としても、我々の価値評価の途上にある存在でもある。代替的癒しが近代知に組み込まれるか、別の生き方の下での癒しのあり方を創造する供給庫となるか、それは社会が、代替的癒しの何を汲み取るかと関わってくると考えられる。
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