本研究は、我が国において新しい杜会・文化運動の様相を呈しつつある代替的癒しの思想と実践について、主として我が国近代における同様の思想と実践との比較を行うことにより、その同質性と異質性を明らかにすることを目的として、実施された。また、それらの作業を通して、代替的癒しが杜会・文化の近代化に対応するように、時代の伏流として存在してきたこと、及び近代化のピークに達したかに見える現代(特に1970年代以降)において、新たな装いをもって登場・展開してくる必然性と意義、さらには今後の課題を明らかにしていくことも、意図された。 研究のための典型事例として、近現代を通して存在し、杜会的認知を求めて法制化運動が繰り広げられた療術を主として取り上げ、また現代においては代替医療をも取り上げて、関係資料により、記述・考察を行った。 その結果、以下の諸点が結論として導かれた。 1.近代の典型的な代替的癒しとしての療術と現代の典型的な代替的癒しとしての代替医療とは、主張、原理、人間観等の主要な特徴において同質性が見られた。 2.近現代の代替的癒しにおいて、近代知の側から問われたのは、同じく近代医学的評価であった。 3.近現代の代替的癒しの杜会・文化的環境は異なり、現代においては新たな保健医療が追究される背景の中で、代替的癒しは、もう一つの(オルタナティブな)可能性として、社会的関心を呼び起こした。 4.今日の代替的癒しには本格的な近代医学的研究が始まりつつあるが、評価は未定であり、また代替的癒しがもともと登場したオルタナティブな価値観や生き方の側面についても、評価は待たれている。
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