(1)理論研究:サブカルチャーの「融解」説に対して、「多極化」説を対置し、二つの批判的論点に至ったことが、本研究の理論的な成果である。(1)対抗性、下位性を持った団塊世代の若者文化は大きな影響力をもった。しかし、そのスタイルが一般的に受け入れられることで文化は下位的なものではなくなり、いわゆる「ゆたかな社会」のなかで若者の対抗性も消失した。若者文化の「融解」説は、このような分析に立脚するものである。こうした「融解」説は、下位的なサブカルチャーの「抽出から融解へ」、「サブからポピュラー」へというプロセスを指摘した点で、大きな意義を持つ。しかし、そうしたプロセスを一回限りのものとして固定化して、サブカルチャーの終焉説に接続される時、「融解」説は問題である。つまり、団塊世代によって顕在化したサブカルチャーというチャンネルの様々な可能性が、隠蔽されてしまうのではないかという問題である。人口の多い団塊世代は、青年期だけでなくライフコースの各段階において、「サブカルチャー的なもの」の様々な可能性を開示してきた。田舎、ジェンダー、障碍者、高齢者などの抱えるバリアフリー化の問題は、このようなサブカルチャー的な視点から見ることもできる。(2)こうした視点の前提として、「サブとメイン」は実体論的に把握されるべきではなく、一定の根拠づけを持った相対的な関係性として、文化相関主義的に把握されるべきであるという理論的知見に逢着した。(2)調査研究:潜在化しているリソースフルな文化チャンネルの可能性、下位性のポピュラー化という点に着目し、いくつかの調査研究を行った。従来から続けている地方のサブカルチャーの研究としては、西日本各都市の文化スポット、路上文化の観察などと行った。また、地方都市における「子ども」、「少年犯罪」、「市民性」、「暴力表現の作品性とリテラシー」などについて調査を行った。
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