本研究は、インドネシアの第2代大統領のいわゆるスハルト体制下ですすめられてきた農村開発政策が、他方で国家による農村社会の強力な中央集権的再編であったことを、さまざまなジャワ農村社会の事例研究をとおして解明しようとするものである。 上記の目的のもとに、本年度は次のような作業をおこなった。(1)「1979年インドネシア共和国法令第5号」による地方行政制度・村落統治制度に関する関係資料の収集と分析、(2)農村社会、とくに行政村の下のいわゆるドゥースン(dusun)と呼ばれる集落ににおける諸集団(行政組織、隣組、婦人組織、青年組織、農業生産組織、宗教組織、相互扶助組織等)の組織化とその上意下達的な再編に関する事例報告等の資料収集と分析、(3)教育による農村社会の民意の向上や国民統合の推進に関する資料の収集と分析、等をすすめてきた。資料の収集は、国内の大学やアジア経済研究所等の研究機関、およびインドネシア領事館を訪問し、さらにインドネシアからの留学生にインタビュー調査をおこなって実施した。 これらの資料分析による成果として、本年度は2つの論文で、(1)上からの開発政策の推進にともなう商業経済の浸透によって、農村の伝統的な相互扶助組織が預金・貸付信用組織としての機能を持つようになり、金銭の貸し借りを介してむしろ相互依存関係が強化されてきたこと、また(2)上からの開発政策の推進に必要な民意の向上と国民統合のために、農村社会では初等教育の拡充とともに非識字教育の推進に力が入れられてきたこと、を明らかにした。
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