(1)D.メーデは著書『労働-滅びゆく価値』(1995年)のなかで、サン・シモンが労働賛美の新しい言説の代表的提唱者だという。たしかに、サン・シモンは万人に社会存立の基礎=労働の義務を提唱した。しかし、サン・シモンは、芸術(家)の役割を(1)変革主体形成につながるところの奮起・創造力(2)社会的結合・団結につながるところの感性(共感)・想像力に置くだけでなく、処女作以来(3)「日曜日や仕事の合間に民衆各人に歓びや楽しみ、知性の発達に寄与するのに最適なもの」としても考えていたのである。『文学的・哲学的・産業的意見』(1825年)では、「プロレタリア階級を構成する諸個人の知性を発達させるのに適した慰安と娯楽」についても言及した。私はサン・シモンのなかに、フーリエとは異なる、芸術(家)論に結びつけての余暇論をみることができるのではないかと考え、「サン・シモンにおける芸術・余暇論」としてまとめつつある。 (2)EUにおける「単一通貨(ユーロ)」の導入をめぐり、フランスでは政財界や主要メディアの論客が集まる「サン・シモン協会」が大きな役割を果たしたという。国際連盟協定に関連したG.ドロックの論文「サン・ピエール神父の『永久平和計画』」(1929年)でルソーやカントはあるが、サン・シモンへの言及はなかった。しかし、EU統合に際しては、サン・シモンにもその思想的源泉が求められている。それはいうまでもなく『ヨーロッパ社会の再組織』(1814年)にである。しかし、サン・シモンは処女作ですでにサン・ピエールの「夢想的」平和計画に対して実効性ある組織論を提示すると言明し、遺作でも神聖同盟を結んだ諸国王に「ヨーロッパ人に最適な社会的学説」を呼び掛けたのである。私は、1814年の政治的ヨーロッパ組織論を、ヨーロッパの歴史的歩みやかれの思想的展開と関連させて考察した「サン・シモンのヨーロッパ論」を、『社会科学研究』(中京大学社会科学研究所)第24巻合併号に投稿する予定である。
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