まず、グローバル化とは何か、をめぐっての議論を概観したうえで、グローバル化に立ち向かうEUとフランスの動向についてのべた。本稿の目的はいうまでもなく「EU統合思想の一先駆者としてのサン・シモン」論である。考察の対象はサン・シモンの共著『ヨーロッパ社会の再組織について』(1814)である。この作品は、F・マニュエルによると、「サン・シモンの生涯において最も成功を収めた刊行物の一つである」が、サン・シモン研究者の評価は1980年代までは低いものであった。しかし、1990年代に入り、とくにEU統合がその評価を変え始めた。私は、この作品でサン・シモンが人々に何を訴えようとしたのかについて、最近におけるその意義と併せて、要約的にだが、論じた。 つぎに、グローバル化に拍車をかけたソ連崩壊を契機に、権威主義的な「ソ連型社会主義=サン・シモン主義の終焉」とする論調が強まった。そこで、ロシアにおけるサン・シモン主義の変遷はどのようなものであったかを調べた。そこでは、サン・シモンがロシア人の弟子とするルーニンについて論じたうえで、サン・シモン主義の本が貪り読まれた1840年代から1970年代を最後に三つのピークをもつことをみた。たしかに、ロシアでは、ソ連崩壊後、社会学=マルクス主義社会学に併せて、サン・シモンも姿を消した。しかし、近年、社会学の教科書の刊行とともに、社会学者としてのサン・シモンも事典に登場し始めたのである。 なお、パリにて、ペール・ラシエーズ墓地にあるサン・シモンの墓碑の再建の経緯、サン・シモニアン・パサージュにおける「サン・シモニアン」の名を冠した社会事業アパートおよび事務所の実在・活動の発見もまた、調査研究の成果のひとつである。
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