本研究は、ライフヒストリー・インタビュー(アクティブ・インタビュー)および資料分析によるハンセン病者研究である。療養所入所者に加えて、いったんは療養所に入所したものの、その後「軽快退所」もしくは「逃走」した病者の主観的意味世界をも考察の対象とした。彼らは、外来診療を行っていた大学病院を「幸運にも」知り得たおかげで、社会復帰の状態を継続できたが、なかには妻にも病歴を隠し通している者もあり、心理的に呵責を感じつつ、重い人生を歩んできた。しかし、他方、趣味に生きる自己を表明し、主体的「生」を営み、人生を肯定的に認知してもいる。 また、6つの「偽名」を生きる女性の人生を描き、療養所生活における生活戦略としての「偽名」使用を明らかにした。また、所内での2度の結婚・離婚を経験し、在郷家族との「水面下の交流」をもち、その状態になかば満足しなかば「悔い」ている男性の複層的な生活世界を解読した。 さらに、1998年からはじまったハンセン病訴訟のまっただ中で生きる原告や非原告らの人生を通して、療養所入所者の主観的意味世界を描き出した。ハンセン病訴訟は、2001年5月に原告側勝訴・国側控訴断念という画期的な結果に終わったが、その過程は原告にとっても非原告にとっても、ある意味で過酷なものであった。原告になるために古くからの人間関係を断絶したり、原告に名を連ねただけで「昔の忘れよう忘れようとしてきたこと」(療養所経験)を思い出し、文字通り身を削ったりしていた。また、原告と非原告の対立が激しくなり人間関係が複雑になった療養所もあり、そのような訴訟期の療養所というフィールドにおいて調査をすることは、調査者を、その位置取りの問題に直面させることとなった。
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