本研究のテーマは、『今後の地方教育行政の在り方について』以降、地方教育委員会がどのような改革に、どれだけ取り組んでいるか、そして、地域的バリエーションがあるとすれば、それは何に起因するものであるのかを明らかにすることであった。このために、郵送法による都道府県教委を対象の悉皆調査、市町村教委を対象の抽出調査を試みた。都道府県教委については、改革の全般的動きは明らかになったが、無回答の質問項目が散見されたこと、また、教育長に関する質問への無回答が目立ったことなどから、分析的考察はあきらめざるを得なかった。そのために、参考資料としてまとめた。市町村教委については、市町村教委の改革動向とその規定規程要因を(限られた視点からではあるが)解明することができた。これが本研究の主たる成果といえる。すなわち、市町村レベルにおいて全体として、中教審答申で提起された方向への改革の取組が進みつつあるのは確かである。しかし、市町村別や人口規模別の比較をするならば、改革動向に大きな格差が見られ、村教委や小規模教委は改革への動きが鈍い。それは、改革の進展度全般においてと同時に、たとえば「学校を支援する指導行政」にかかわる改革において、顕著に見られる。ここには、指導主事の配置率に象徴される教育行財政能力・リソースの不足という、小規模教委の抱える問題が反映されていると見ることができる。これは目新しい事実ではないが、教育委員会には「役割の再定義」が求められ、教育改善の鍵を握るとされている状況の中で、この事実は重い意味を持つと思われる。しかしまた、教育長の諸特性が改革の進展に大きくかかわっている。教育長の特性が市町村の壁を越えて改革や推進する力となりうる可能性を示唆する事実が明らかになった。高い政治・行政手腕や確かな教育識見、強い問題解決志向、首長との連携・一体化、あるいは、議員や地域住民など、教育にかかわるいわゆる「有権者」層との交流の幅広さやはたらきかけの強さ、こうした特性を持つ教育長のもとでは、教育委員会は自己革新の傾向が大きいことが現われている。
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