本研究は1997年タイのバーツ暴落を契機に始まったアジアの経済危機およびグローバル化の波に対して、各国の教育分野における取り組みや対応について、何らかの傾向やパターン、もしくは相違点を明らかにしよういうものであった。研究対象としてはタイ、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、中国、ブータン、バングラデシュを選び、現地調査、文献・統計調査、マルチメディアなどによって分析データを収集した。 本科研の助成により、2000年11月にはバングラデシュ(文部省、JICA、大学、NGO、学校)・シンガポールを訪問し、2001年8月にはベトナム(大学・教員カレッジ、研究所)を訪れ、一次資料・2次資料を収集した。タイ、マレーシア、ブルネイ、中国、ブータン各国については別の科研等で訪問の機会を利用して、部分的に関連情報を収集した。インタビューなどからは、科学技術教育の重視という共通部分のなかにも各国独特の温度差や力点の違いについての貴重な情報が得られた。 近年の教育改革においては、科学技術教育と価値教育という分野において、教育政策の焦点があてられているという傾向が見られた。ある国はカリキュラムにおいて科学技術教育を独立の科目として導入し、また多くの国で前期もしくは後期中等教育からの科学技術ストリームの分岐を開始させていた。いかし一方で、流入する情報の洪水と経済の悪化による、若者の伝統的価値観や道徳心の喪失が問題となり、そのために新たな価値教育科目を導入する国も見られた。 結果的に経済危機の深刻さや、国家としての人口規模などによって、各国の対応は似ているが微妙な差異を示していた。例えばその国の中等教育就学率のレベルによって、こうした政策の焦点と効果は大きく影響されるし、国家規模により教員や教材の近隣諸国への依存度が高いと、児童生徒の国民アイデンティティの希薄化が起こり、価値教育の必要性も大きくなるという傾向も得られた。
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