最終年度に当たる今年度は、これまでの調査・研究の成果をまとめる作業に集中した。 その結果、三編の研究論文と一本の口頭での研究発表を行うことができた。 第一は、沖田行司氏と共編著として山川出版社から出版した『教育社会史』掲載の論文である。内容的には、近世がすでに文字社会になっていること、そこで文字を媒介とした新たなメディアとして、商業的な出版があり、出版メディアが教育史的に見たときに持つ意味を論じた「文字社会の成立と出版メディア」の章、宗教(とくに仏教寺院)制度にもとづく僧侶の活動の教育的意味や、石門心学が文字でなく口頭での道話を用いた社会教化活動を論じた「近世社会における教育の多様性」の章、江戸幕府の教育政策を出版等の等のメディアの視点から論じた「幕府の教育政策と民衆」の章を書いた。 第二は、「梅岩心学と懐徳堂知識人」の論文で、同じく民衆的世界を土壌としながら、漢文テキストを学問のメディアとした懐徳堂知識人と講釈・道話を知の伝達のメディアとした心学をメディア史の視点から対比して論じた。 第三に、18世紀後半から19世紀前半における学問と教育の発展を「人情」の直視と「日本的内部」の形成の視点から論じた「学問と教育の発展」という論文を書き、出版社に入稿した。 第四に、11月末に、台湾国立大学における国際シンポジウムにおいて、貝原益軒の経書註釈作業と教育的出版意図をもつて出版したことの意味を論じた「貝原益軒の大学解釈と出版」を口頭報告するとともに、論文を提出した。
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