本研究の目的は、(a)非伝統的学生の特性と学習スタイル、(b)非伝統的学生に対する教師の理解と指導の実態、を明らかにし、(c)非伝統的学生に効果的な学習支援を提供するための改善策をさぐることにある。広島大学の大学院に籍を置く非伝統的学生と教員を対象に実施した調査から明らかになった研究成果を要約すると、以下のようである。 (1)伝統的学生に比べると、非伝統的学生は、広範な目的と強い動機づけをもって大学に入学していることがわかった。 (2)学習スタイルについては、学習目標の設定、内容や方法、ペースの決定において自己主導性(Self-directedness)の発揮を希望する。ただし、評価に関しては、教師に委ねる傾向がみとめられた。 (3)大学教師は、大学が非伝統的学生を受け入れることに、おおむね肯定的である。 (4)しかし、大学教師の多くは、従来型の大学教育観から抜け出せないでいる。 (5)非伝統的学生は、高いself-respectに特徴づけられる反面、同時にフォーマルな学習環境に身を置くことに強い不安や恐怖を感じている。こうしたアンビバレントな感情に対して、教師の側での配慮はとぼしい。また、生活者であることに起因する学習上の障害にも、教師は疎い点も問題である。 (6)現在のところ、問題は、非伝統的学生に対する学習支援は、教師の個人的な経験とパーソナリティに大きく依存しているところにある。したがって、ファカルティ・ディベロップメントの実施は勿論、長期的には非伝統的学生の学習支援に関する調査研究組織の整備が欠かせない。
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