本研究の目的は、奥丹後地域を研究フィールドにして、教育における住民自治と地域教育運動や到達度評価実践との内的連関を明らかにすることであった。聞き取り調査等の現地調査を主たる方法とし、その過程で内部資料も含む諸種の資料を入手することができた。 研究成果報告書はIII部12章で構成され、第I部の教育実践編(第1〜8章)では、京都府の到達度評価実践の全般的動向や奥丹後地域の人口動態、産業構造の変遷、高等学校進学率の推移などに触れたうえで、奥丹後の到達度評価実践をリードした川上小学校と峰山中学校の実践を詳細に分析した。峰山中については、育友会(PTA)誌『やまびこ』によって1960年代後半から180年代前半までの父母の教育要求の変化をとらえることができた。さらに育友会員や地域の人々によって組織された民主教育の会や環境浄化の会の動きについても把握することができた。第II部の理論編(9〜12章)では、到達度評価論の研究課題や奥丹後の教育実践が「総合的な学習」に示唆することがら等を論じた。第III部の資料編には筆者作成の年譜等を収録した。 本研究の結論は要約すると次のようになる。1960年代の高度経済成長を経る過程で地域社会の人間形成機能が大きく衰退し、そのことの影響が子どもの心と身体の変化として、ときには学校の「荒れ」として現われ、学校教育が地域杜会の協力をえないと立ち行かない状況になっていた。奥丹後では、教材を地域杜会に求めるだけでなく、父母に授業公開をしたり、教師と父母がともに教育研究集会をもったりなどしていた。それが地域教育運動であり、また到達度評価実践でもあった。教育における住民自治は教師たちが地域に目を開き、地域の人々とともに教育をつくり、かつ地域の人間形成機能を高める活動を展開するなかで成立したのである。
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