研究概要 |
1945年以降,障害児教育・福祉思想としてノーマライゼーションの原理が提唱され,我が国でも現在最も普遍的原理であると認識されるようになっている.ノーマライゼーションの原理は障害を持つ人も他のすべての市民と同様な権利や義務を持たねばならないことを主張するものであり,それまでの医療モデルに基づく障害者福祉政策に大きな転換を迫ったという点で評価できる.特に,北米においては,障害者の生活を正常化または平均化することを目的とする統合・脱施設運動として発展してきた. 一方,このようなノーマライゼーションの展開に対して,それがむしろ障害者に一定の生活様式を強制するものであり,自由なライフスタイルの選択を制限するものであるとする批判も起こった.本来,障害者の福祉・教育では障害者自身の心身の安寧が追求されるべきであるとすれば,むしろ個人の選択権の確立,選択肢の拡大こそが必要とされる.このような考え方からQOLの原理の重要性が指摘されるようになった.つまり,障害者にとってどのような生活が望ましいかを一般論として議論することはできず,個々の障害者のニーズや望みに照らして生活の質,サービスの質が問われなければならない.このような背景のもと,障害者の権利擁護運動も大きく発展した. 以上の歴史的総括に基づき,本研究ではノーマライゼーションとQOLの原理の限界を超克するものとして共生の原理に着目した.共生の原理は,異質な人間同士が共存する原理として他者との人間的出会い(マルティン・ブーバーによる)を重視する.教育・福祉思想としてのその可能性が探求された.
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