I中等職業教育(中等実業教育)の概念について 近代日本の中等学校概念は、その卒業者が上級学校に進学し得る学校として、中学校令による尋常中学校(後に中学校)を基準として形成された。本研究では、(1)早い時期から徴兵制度、官吏登用試験などの社会制度において、実業学校を中学校と同程度の学校として位置づけたこと、(2)その後甲種実業学校卒業者には専門学校入学者検定規程により専門学校、高等学校への入学資格が与えられ、実際に少なからぬ者が実業専門学校へ入学したことにより、甲種実業学校が中等実業教育の実質をもったことなどを解明した。 II農業高等学校の農場収入還元金制度について 中等職業教育に固有の問題の一つである実習収入の扱いにつき、とくに農業科に注目して若干の問題を解明した。その結果、(1)戦後、多くの府県は、この収入を一般会計で処理せず、収入を上げた学校の会計に還元するシステムを育振産業教興法の規定を根拠により制度化しており、教育現場ではこのシステムを還元金制度などと通称していること、(2)沿革的には1930年代から幾つかの府県で採用され始めたこと、(3)この制度については産業教育振興法の制定当時から賛否両論があったこと、(4)しかし戦後には全都道府県で採用されたこと、(5)この制度については、収入を上げることが目的とされて実習のあり方をゆがめるとする意見と実習を合理的に展開するためあるいは施設設備の有効活用のためには有益な制度あるとする意見が錯綜していること、(6)そうした中でこの特別会計制度を廃止して一般会計で扱うことに移行した都府県が現れ、その数は2000年度には13に上ること、などを実証的に明らかにした。
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