本年度の研究は、サイバー・スペースにおける青年期初期の自我構造がいかなる影響を受け、青年のアイデンティティ形成にどのような変容をもたらしているのかを、論理的分析から実証的分析へと進めることを目的としている。さらに、そうした自我変容が我が国の中等教育システムに与える影響について、政策論も含めて検討することを目指すものである。 この一連の分折から得られた知見として、近代社会が作り上げてきた、統一された自我をもった人間観が、現代の高度情報社会、ネットワーク社会では崩れつつあるという結論が出された。 さらに、ポスト・ヒューマンという概念は、現在我が国の中等教育が抱えている様々な問題現象(いじめ・不登校・既判力低下)をごく自然な状態として受け入れてしまうということが解った。 もし、それを認めるなら、我が国の学校教育は、ポスト・ヒューマンに合わせたシステムに根本的改革を迫られるだろう。逆に、ポスト・ヒューマンという概念を否定するなら、教育を通じて近代的人間観を回復する作業が必要になることが明らかになった。中学校現場で教師たちが抱かえている悩み(統制から抜け落ちる子どもたちは)は、ポスト・ヒューマンという概念を理解することで、かなり分かりやすい行動様式になるだろう。 その意味では、今後、この研究は生徒理解のみならず、中等学校現場での教師にとっても有効な生徒理解枠組みを提供してくれるものと考えられる。とはいえ、まだ、実証データはほとんど収集できていない。その点のデータ収集蓄積がなされれば、教育学基礎理論まで含めた再構築が期特できる。
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