本研究は、近年脳科学の進展により明らかとなりつつある無意識の世界における記憶や意志決定過程に注目し、教師の実践的力量における暗黙知の評価事例を分析することを通じて、暗黙知を中心とした教師の実践的力量を高める具体的方策について考察することを目的とした。 教師の実践的力量における暗黙知を評価する事例として、本研究では指導力不足教員の評価と米国における優秀教員認定制度を取り上げた。 指導力不足教員の評価においては、多様な具体的事例を例示することにより、教師の暗黙知の問題的側面をより客観的に測定する試みがなされている。米国の優秀教員認定制度においては、授業のビデオや生徒のポートフォリオ、日誌などの多様な資料を提出し、さらに試験会場で2日間にわたり面接や集団討議、ロールプレイなどを課すなどにより、教師の暗黙知を測定している。 暗黙知を育む研修の手法として、米国で注目されている手法の一つとしてアクションリサーチが挙げられる。これは、教師が自らの実践を研究対象として1年から数年かけて研究し、実践の改善を目指すものであるが、研究を通じて教師自身の暗黙知が豊かになったとの成果が報告されている。また、日本の授業研究も、暗黙知を育む研修の手法として任地が広がりつつある。米国で注目されつつある2つの研修手法は、既存の研修が明示知の伝達に終始していたとの反省と暗黙知を獲得させるために教師自身が主体的に取り組む必要性を提示している。 以上の作業を通じ、日本の教師教育において暗黙知を評価し、それを獲得するために必要な施策を考察した。
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